言ノ葉珈琲について

創業のひとしずく

珈琲そのものが好きになったのは、大学の頃でした。ただ飲むのが好きな、いち客でした。

その珈琲が「自分で焼くもの」に変わったのは、ずっとあとです。島で暮らしていた頃、島の小さなカフェで、店主が自分で焼いた珈琲を出してくれました。豆を、人が火にかけている。考えれば当たり前のことなのに、そのとき初めて、一杯の後ろにある手の仕事が見えた気がしたのです。

自分で焼いてみたい、と思うようになったのは、そこからでした。

一杯の珈琲は、飲み終えて終わり、ではないと思っています。淹れるひととき、誰かと交わす言葉、そこから生まれる何か——その先にこそ、価値がある。そう思うから、言ノ葉は珈琲の中身も、届け方も、隠さずにやりたいのです。

焙煎した日を、隠さない

珈琲は、いつ焼いたかで表情を変えます。私自身、焙煎日を教えてくれる店で豆を買ったとき、その正直さに救われました。だから言ノ葉は、焙煎した日を必ず記します。これは、言ノ葉の変わらない約束です。

ご注文をいただいてから焙煎する「受注焙煎」。在庫を持たず、あなたの分だけを、焼きたてで。

袋に記された日付は、あなたのために火を入れた日です。次にご注文をいただくときは、また新しい日付が、袋に刻まれます。

値段のこと、正直に

言ノ葉の珈琲は、スーパーの豆より高いです。安くて美味しい珈琲も、世の中にはたくさんあります。私自身、長いあいだ、値段で珈琲を選んで飲んできました。だから、そう思う気持ちはよく分かります。

それでも言ノ葉がこの値段をいただくのは、「高い豆だから」という理由だけではありません。値段を下げようとすると、必ずどこかを削って埋めることになります。焼く回数か、一焼きずつ記録を取る手間か、目の届く量か——そのどれかを。そこを削りたくない、というだけの理由です。

焼きたての一杯と、いつ焼いたかが分かる安心。その手間のぶんを、いただいています。その価値を「いいな」と思ってくださる方に、届けたい。

なぜ、100gしか売らないのか

正直に打ち明けます。焙煎機に入れるのは、一度に150gと決めました。焙煎すると水分が抜けて目減りします。焼き上がった豆から、お届けするのが100g。残った豆は私が飲んで、その日の焼き上がりを確かめます。量を増やそうとすれば二回に分けて焼くことになり、そうすると同じ味に揃えるのが難しくなる。シングルの豆は、一度の焙煎で、一袋。そう決めました。

——でも、そう決めて暮らしてみると、これがいい、と思うようになりました。

100gは、だいたい10杯ぶん(コーヒー1杯=約10g)。珈琲がいちばん美味しいのは、焙煎してから二週間ほど。100gなら、その“美味しい窓”のうちに飲み切れます。袋の底で古くなっていく珈琲がない。焙煎日を明かす店として、いちばん大事にしたいことでした。

100gなら気軽です。今月はエチオピア、来月はグアテマラ——産地を旅するように試せます。少量だから、一回ずつ丁寧に焼ける。目の届く量しか、焼きません。

この100gが、いまの言ノ葉のやり方です。小さく、正直に。

「言ノ葉」の由来

言霊(ことだま)という古い考え方があります。発した言葉は、そのまま自分に返ってくる。だから言葉は、軽く扱えない。

店の名前をこれにしたのは、飾りではなく戒めです。ここに書くこと——産地、焙煎した日、記録——も、そのまま自分に返ってきます。

言ノ葉が、貫くこと

Cotonoha ― 言葉を、軽く扱わない
だからこの店は、産地も、焙煎した日も、確かめたことだけを書きます。飾らない。美味しさを大げさに語るより、事実を正直に渡す。それが「言ノ葉」という名に対する、私の筋の通し方です。

Connect ― 一杯を、あなたのために
珈琲は、作り手と飲み手のあいだに立つものだと思っています。だから在庫を送らず、ご注文を受けてから、あなたの分を焼く。産地の畑と、あなたの食卓を、一杯でつなぐ。顔の見える距離で商いをする——それが言ノ葉の繋ぎ方です。

Community ― 好きな人と、長くつづく輪を
派手に大きくするより、言葉と珈琲を好む人と、無理のない輪を焦らず育てていきます。一度きりで終わらせない。細くても、折れずに続く関係を。急いで数を追わないのは、その一杯ずつを取りこぼしたくないからです。

いまの現在地

福岡の小さな焙煎所です。使っているのは、陶器のドラムをもつ小さな焙煎機(珈悦)です。陶器は熱を輻射で渡すのが得意で、豆はまず表面から温まり、芯へは時間をかけて伝わっていきます。だから一気に火を上げれば表面だけが先に焦げてしまう。芯まで通すには、火加減を抑えて、ゆっくり時間をかけるしかありません。手間はかかりますが、その時間の配り方を、いま一焼きずつ確かめているところです。

焙煎した豆を、どう淹れるかも手の仕事です。エスプレッソは、レバーを自分の手で引いて圧をかける古い型で淹れます。機械が自動で決めない分、その日の豆に合わせて手で加減する。挽く道具で粒を揃えるのも、味を安定させるための地味な下ごしらえです。

焙煎と袋詰めは、家庭の一角で行っています。香り移りには細心の注意を払っていますが、その可能性をゼロにはできません。香りに敏感な方・化学物質過敏症の方は、ご購入の前に一度ご相談ください。正直にお伝えしたうえで、選んでいただけたらと思います。(詳しくは会社情報に)

この店は、まだ途中です。上手くなっていく様子も、しくじった記録も、隠さずここに足していきます。完成した店より、良くなっていく店を、隣で見ていてもらえたら。

特別な道具だから美味しい、とは言いません。道具は入口で、美味しさは豆選びと焙煎と、淹れる人の手でつくります。

数字と記録が揃うまで、味の宣伝文句は書きません。

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